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「分かれ道」 宮沢龍生

 

 分かれ道まで来たところでクロとネコの意見が割れた。

 クロは「俺の直感だとこちらだ」そう言って右の方を指さした。

 一方、ネコは「こっちからシロの匂いがする。ワガハイの鼻に間違いはない!」断固として左側の道を譲らなかった。

 二人は睨み合った。

 クロにとっての新たな主、ネコにとっての本当に大事な人、伊佐那社が消失してから、二人はずっと共に旅を続けてきた。

 彼が生きていると信じて。いつか再び彼に巡り会えると思って。

 あのへらへらとした緩い笑みや時折、見せる寂しそうな表情。そしてその底に眠る限りなく強靱で、透明な優しさ、暖かさ。もう一度、彼と会って話がしたい。その想いで二人は珍道中を繰り広げてきたのだ。

 クロは「まずあの男には小言を言わなければらないな」と苦い表情をしていたが、その内心ははっきりとしていた。彼は今度こそ伊佐那社を護る、と決意を固めていた。主を失う経験は一度で沢山だった。

 一方、ネコはストレートだった。「シロに会ったらたくさん、たくさん、遊ぶの!  いーっぱい、いーっぱい、お喋りするの!」彼女はその純粋な気持ちを隠そうともしなかった。彼らは信じていた。シロはどこかで必ず彼らを待っていると。

 二人がさらに言い争いをしようとしたその時、大粒の水滴がぽたりと空から落ちてきて、やがてざあざあと本降りの雨になった。

 クロとネコはちょうど二股の道の間に生えていた巨木の陰に慌てて駆け込んで雨宿りをすることにした。

「にゃあ」ネコはまるで本物のネコのように身を震わせて、水滴を跳ね飛ばした。クロは手ぬぐいを取り出し、自らの頭や肩を拭いていたが、そんなネコを見かねて、軽く溜息をつくと彼女の長い髪やワンピースもついでに拭ってやった。ネコは大人しくされるがままでいた。

「――ありがとう、クロスケ」ネコの小さな、恥ずかしそうな感謝の言葉に「気にするな」クロはさりげなくそう答えた。

 雨が降り続けている間、二人は互いに無言で空を見上げていた。やがてネコがよそを見ながら言った。

「ワガハイ、おまえのことはすっごく嫌い、という訳でもない」実に回りくどい言い方だった。「奇遇だな」クロは小さく笑った。「俺もおまえのことは苦手だが、絶対的に忌避している訳でもない」ネコが口元ににっと笑みを浮かべた。

 シロを通じて知り合ったこの二人に、いつしかこの二人だけの独自のキズナが築かれつつあるのだが、当事者の二人がどこまでそれを意識しているのか定かではなかった。

「ワガハイ、ちょっと考えがある」雨が止みかけた空を見つめてネコが言った。「奇遇だな」クロもまた答えた。二人の声がほとんどシンクロした。

「ワガハイたちが別々にいけば」

「その分、シロを見つける可能性は高くなる」

 二人は目を合わせ、お互いに笑い合った。思いは一緒だったのだ。どちらからともなく手を差しのばし、握り合う。

「道中、気をつけろよ」

「クロスケも!」

 二人はその場で約束を交わし、一定の日数が経過したら学園島で再会することにした。

 そしてクロは右に、ネコは左に二人は別々の道を進み始めた。

 いつか三人で笑い合える日常を取り戻すために。

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