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K -Lost Small World-

2014年春発売『K -Lost Small World-』(著:壁井ユカコ)より本編の一部をホームページ限定で先行公開!

・~Period 1より~

・~Period 2より~

~Period 2より~

 

「すげーっ!」

 と八田は目を輝かせて、左手首に嵌めた腕時計のスイッチを押しまくった。そのたびに風防の真上の虚空に約四インチのホログラフィーの画面が現れては消える。

「うおーっ、すげーっ! 猿比古、すげーかっけーよこれ! なんかの戦隊の隊員がつけてるやつみてえ!」

「戦隊って、おまえの頭は小二以下か」

「せっ、戦隊の隊員はおとななんだからいいだろ?」

 恥ずかしそうに説得力の薄い反論をし、八田はまた「おおお」と歓声をあげて腕時計をぱちぱちといじる。

「今のところは時計自体がタンマツになったわけじゃないから、タンマツも持ってないと意味ないんだけどな。おれが使ってるやつを応用して……」伏見は自分のタンマツの画面を特定のジェスチャーではじいた。八田のよりもやや大型のホログラフィーが空中に浮かびあがった。「そのうちちゃんと改造したいけど、今回はこんなもんかな。美咲には外で動いてもらうから、機動力があるやつがいいだろ。で、おれはこれ」

 と、片耳だけのイヤパッドにマイクがついたヘッドセットをだしてみせた。

「おおおっ……」

 目を潤ませて食いついてきた八田に半眼をやって、

「戦隊のオペレーターみたいって思っただろ、今」

「うっ、お、お、思ってねえよ?」

「おれが思った。かっこいいだろ」

 飄々と言ってすちゃっとヘッドセットを装着する。八田がきょとんとしてから、

「なんだよー。猿比古だってその気じゃねえか」

 と破顔した。伏見もにやりと笑い返した。

「あとハッキングツール走らせる用のパソコン組んだ。タンマツだけじゃさすがに無理だし」

「司令室って感じになってきたなっ」八田が意気揚々と部屋を見まわす。「この時点で勝ったような気がしてきたぜ、オレ」

「バーカ。まだはじまってもいないだろ」

「じゃあ負ける可能性考えてんのかよ、猿比古?」

「まさか」

 即答すると、八田も気合いの入った顔で頷いた。

「だよな。オレとおまえが組んで、負ける気なんてこれっぽっちもしねえ」

 戦隊ヒーローものの司令室といえば煌々とした照明に照らされた近未来的な空間にモニターがずらりと並んでいたりするものだが、ここはせいぜいアマチュアのラジオ局といった感だ。中腰にならないと脳天を擦る高さのロフトスペースを、デスクスタンドの灯りだけが照らしている。ロフトをおりると普通に立って歩ける高さの居住スペースがあるが、そっちにはまだ荷物はほとんどない。基地としての整備だけを先行して進めてきた。

 アジトを本気で探そうという話をしてから一ヶ月。中学生が保証人もなしで借りられる部屋など普通に考えたらあるものではないが、八田が言っていたとおり、鎮目町のアンダーグラウンドな不動産屋はそのへんの条件がゆるかった。

 戦闘機が出撃する屋上のヘリポートも、用水路から秘密の地下道で繋がっている地下室も、残念ながらない。かわりに梯子で上り下りする三畳くらいのロフトがある。雑居ビルの一階で、前はなにかの店舗だったらしく、壁と床はコンクリート打ちっ放し、天井にはダクトが剥きだしになっている。がらんとした四角い空間だが、キッチンと風呂とトイレはちゃんとついている。

 この条件で格安の物件だったので八田が即決しようと言った。条件がよすぎると思って調べたら殺人事件があったとかいう曰くつき物件だったからなのだが……八田には言ってないんだよな、と伏見はこっそり舌をだす。

「それで美咲、そっちの準備は?」

「まかしとけって。前言ってた新しい足、調達したぜ」

 八田が梯子を使わずにロフトから飛びおり、ロフトの下に潜り込んで一度視界から消えた(ちなみにロフト上が伏見、ロフト下が八田、それ以外が共有スペースというふうに領地を決めた)。

 なにやってるんだろうと思っていると、

 ガッ!

 床を鋭く打つ音とともに、八田がロフト下から勢いよく滑りでてきた。

 ロフトの上で伏見は目を丸くした。八田は向かい側の壁までそのまま突進し、壁の手前でぎゅるんっと半転して、こっちを向いてとまった。

「へへん」

 とドヤ顔で胸を反らした八田が足で踏んでいるものは、

「へえ……スケボー?」

「公園でこれ練習してる大学生くらいのグループがいて、ピンと来たんだ。これなら小回りきくし、街ん中を移動するのにうってつけだって。でさ、使ってないのがあったら譲ってくれねえかってそいつらに声かけたんだ。おまえ中坊か、キックフリップくらいはできるんだろうな? って言われたから、キックフリップってなんだって訊いたらそいつら笑って、一時間でできるようになったらおれらが持ってる中で一番いいボードやるぜ、って煽りやがったんだ。じゃあ一回だけ手本見せてくれよ、やってやるぜ、ってオレは請けあったわけだ。そんでオレは一時間どころか一回で見事成功させて、連中の度肝を抜いてやったってわけ。ま、オレの運動神経にかかればチョロいもんだぜ」

 腰に両手をあて、鼻を高くして武勇譚を披露する八田の、その両手が擦り傷だらけになっていた。長袖長ズボンで隠れているがどうせ身体も痣だらけなんだろう。

「一回で成功、ね」

「な、なんだよ、疑うのかよ」

 伏見の半眼に気づいて八田はばつが悪そうに両手を尻の後ろに引っ込めた。

「ま、まあはじめたばっかりだからこんなもんだけど、作戦まであと一週間だろ。一週間あれば完璧に乗りこなしてやるって」

 一週間後――〈jungle〉サーバーのハッキングに挑む。

 急ごしらえの部分もあるが、欲しかったものは一応揃えた。慎重になりすぎて何ヶ月も機会を待つんじゃあ面白さが目減りするし、タイミングよくとある情報が入ってきたので、この日に仕掛けようと決めた。

【サプライズ・パーティーのエキストラ募集】

 〈jungle〉で斡旋されている十二月のミッションの中に、そんなものを見つけた。十二月二十六日の夜、鎮目町で行われるサプライズ・パーティーに参加しないかというものだ。

 サプライズ・パーティー? 唐突感がなにか引っかかってネットに流れている情報を漁ったら、このミッションにはある噂がついてまわっていた。「ミッションの参加者限定で、〈jungle〉が受験のとき有利になる情報をくれるらしいよ」――自然発生したものなのか、〈jungle〉が意図的に流したのかは不明だ。都内に住む相当数の中学三年生(高校三年生も含むかもしれないが、あえて切り分ける必要もないだろう)にこの話は広まっている。

 具体的になにがどう「有利になる情報」なのかもわからない。カンニングの幇助なのか、あるいは点数の操作なのか――詳細はすべてが不明なのだが、だからこそ期待をこめて受験生のあいだで広く囁かれていた。そして同時に焦りや疑いも生んでいた。そんな遊びに参加して貴重な時間を潰すくらいなら、当然まっとうな受験生なら家で勉強しようと思うはずだ。しかし、もし自分以外のみんなが参加するとしたら? 参加しなかったことで、参加した者よりも相対的に不利になってはたまらない、と考えるだろう。

 ネットを使って人の感情を揺さぶり、行動を操作する――〈jungle〉にはそういう一面があることを伏見は感じていた。

「十二月二十六日、"サプライズ・パーティー"の集合時間は夜十一時。年末のそんな時間に、自分の部屋で机にかじりついてるはずの大勢の受験生が家から抜けだす。そして家から消えた分の人口が鎮目町に集まる。〈jungle〉を動かしてる連中も鎮目町の動きに目を向けてるはずだ。そのあいだにおれたちは、〈jungle〉の"中"を狙う」

「あっと言わせてやろうぜ。猿比古、おまえとだったら、世界だって乗っ取れる気がしてる」

 八田がロフトの下から握り拳を突きだしてきた。擦り傷がかさぶたになりかけて赤く腫れあがっている。

 ロフトの上から伏見も手を伸ばし、八田の右の拳に自分の左の拳を、ごつん、と突きあわせた。

 自分たちみたいな中坊が本気で〈jungle〉を乗っ取る計画を立てている。八田以外の誰に話したところで、子どものごっこ遊びだと笑うだけだろう。

 でも、八田だけは笑わない。本気でやれるって信じてる。

 おれが計画したからだ。世の中をあっと言わせてやろうぜって、おれが言ったからだ。

 "世の中"なんて本当は伏見はどうでもよかった。こんなクソみたいな世界欲しいともなんとも思わない。ただ、学校とかの小さい世界でくすぶって文句言ってるだけじゃなくて、もっと圧倒的な力を持った、でかい存在にだって刃向かえる力が自分たちにはあるんだって、それを証明してやろうって思った。

「"赤い怪物"すらコケにした〈jungle〉を、おれたちがコケにする。一週間後には世界のすげぇ奴の勢力図がちょっと変わってるぜ?」

 負ける気はしない。いくらでもでかいことを言えた。

「クソつまんねえ世界をおれたちでひっくり返す」

「けどさ、ひっくり返しても面白くならなかったらどうするんだ?」

「絶望するしかないな。そうなったらもう宇宙に飛びだして太陽に突っ込む方法でも考えるか」

「それもいいな! 超イカした宇宙船造って、超クールに突っ込もうぜ!」

 綿密で実際的な計画と、壮大で漠然としたバカ話とを夜が更けるまで飽くことなく二人で語りあった。それから八田が先に寝てしまうと伏見はまた一人でパソコンに向かった。一週間後に向けてまだいくつか仕込んでおきたいことがある。薄暗い部屋でディスプレイの光だけに照らされて作業に集中した。

 この部屋は、盗まれても惜しくないものしか置いていないあの冷たい大屋敷とは違った。あの家よりずっと狭いし、高価なものなんて置いてない。パソコンだって安いパーツを集めたものでしかない。さらには曰くつき物件っていうおまけまである。

 でも、ここには盗まれて平気なものはなに一つなかった。

 

To be continued...

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